Tersoffポテンシャル

Tersoff ポテンシャルの定義

Tersoffポテンシャルは、Stillinger-Weberポテンシャルと同様、Si結晶が表現できるポテンシャルとして広く用いられている。クラスタ展開に基づくStillinger-Weberポテンシャルと異なり、各原子の局所的な環境に依存して結合の強さが変わる「ボンドオーダーポテンシャル」という思想でデザインされた。

1988年に発表されたTersoffポテンシャルの論文(Physical Review B, Vol.37, 6991)によると、以下のような定義になっている。

$$ V = \frac{1}{2}\sum_i\sum_{j \neq i} f_C(r_{ij})\left [ f_R(r_{ij})+b_{ij}f_A(r_{ij})\right ] $$

ここで\(f_R\)は等方的に働く反発相互作用、\(f_A\)は引力相互作用項で、それぞれ指数関数型の関数で表される。

$$ f_R(r_{ij})=A_{ij} \exp(-\lambda_{1} r_{ij} ) $$

$$ f_A(r_{ij})=-B_{ij} \exp(-\lambda_{2} r_{ij} ) $$

また\(f_C\)は相互作用を有限距離で滑らかに打ち切るカットオフ関数で、Tersoffポテンシャルでは

$$ f_C(r_{ij})=\left \{
\begin{array}[ll] \displaystyle 1, & r_{ij}<R – D\\
\frac{1}{2}-\frac{1}{2}\sin\left (\frac{\pi}{2} \frac{r_{ij}-R}{D} \right ), & R – D <r_{ij}<R+D \\
0, & r_{ij} >R+D
\end{array}
\right . $$

が用いられている。

ボンドオーダーポテンシャルの特徴は、局所的な環境に依存する係数\(b_{ij}\)に詰まっている。

$$ b_{ij} = {(1+\beta_i^{n} \zeta_{ij}^{n})}^{-1/2n} $$

ここで\(\zeta_{ij}\)は

$$ \zeta_{ij} = \sum_{k \neq j} f_C(r_{ik}) g(\theta_{jik}) \exp [ \lambda^3_3 {(r_{ij}-r_{ik})}^3 ]$$

と定義され、さらに\(g(\theta_{jik})\)は

$$ g(\theta_{jik}) = 1 + \frac{c^2}{d^2} – \frac{c^2}{d^2 + {(h-\cos\theta_{jik})}^2} $$

と定義されている。なお、\(\theta_{jik}\)は\(i\)を頂点とする\(j\)-\(i\)-\(k\)結合角を表す。

このように、原子\(i\)と\(j\)の引力相互作用は\(r_{ij}\)だけでは単純に決まらず、\(i\)と\(j\)を取り巻く周辺の原子たち(ここでは\(k\)でラベル付けされている)の配置にも依存して変化することになる。